成人式の会場は、思ったより騒がしかった。
「うわ、お前その髪色ヤバ」
「お前もスーツ似合ってないって」
久しぶりの友達と笑いながら、自分は紙コップのジュースを飲んだ。
その時だった。
「あ。」
聞き覚えのある声。
振り向いた瞬間、心臓が止まりそうになった。
「……遥?」
振袖姿の彼女が、少しだけ目を丸くした。
高校二年の時に付き合っていた元カノ。
最後は、ちゃんと別れたはずなのに。
三年ぶりに見る顔は、ちゃんと大人になっていた。
「久しぶり。」
「え、マジで久しぶりじゃん。」
自分は笑った。
いつもの癖で。
気まずさをごまかすみたいに。
遥も少し笑った。
「元気してた?」
「まぁ、それなり。」
「彼女できた?」
「いや、全然。」
「あはは、モテそうなのに。」
「そっちは?」
「……まぁ、それなり。」
その返し方が、昔と同じだった。
一瞬で高校時代に戻った気がした。
放課後。
コンビニ。
駅までの帰り道。
くだらないLINE。
全部。
「てか、そのネックレス。」
遥が指をさした。
「あ、まだ付けてたんだ。」
銀色の小さいリング。
高校の時、遥にもらったやつだった。
「あー……なんか外すタイミングなくて。」
嘘だった。
本当は、一回も外せなかった。
遥は少しだけ目を伏せた。
「そっか。」
沈黙。
周りは騒がしいのに、自分たちのところだけ静かだった。
「ねぇ。」
遥が小さく言った。
「高校の時さ。」
「ん?」
「うちら、別れなくてもよかったよね。」
胸が痛くなった。
でも、自分は笑ってしまった。
「何それ。今さら?」
強がりだった。
本当は今すぐ、
“やり直したい”
って言いたかった。
遥も笑った。
でも、目は笑ってなかった。
「だよね。ごめん。」
その時、友達が向こうから呼んだ。
「遥ー!写真撮ろー!」
「あ、行く!」
遥は振り返って、自分を見た。
「じゃあね。」
「おう。」
それだけ。
それだけしか言えなかった。
遥は人混みの中に消えていった。
追いかければよかった。
名前を呼べばよかった。
でも、自分は動けなかった。
たぶん。
遥も、同じだった。
成人式の日。
大人になったはずの自分たちは、
高校生の時より、ずっと素直になれなかった。


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