『夢の階段』

「また来た…」

気づくと、自分は白い駅に立っていた。

空も白。
床も白。

でも、遠くにある階段だけが真っ黒だった。

スマホを見る。

画面には、現実と同じ通知。

“明日の発表、休まないよね?”

クラスのグループLINEだった。

心臓が重くなる。

「……行きたくない」

そう呟いた瞬間、黒い階段がギギギ…と音を立てた。

上から誰かが降りてくる。

黒い制服。
顔は見えない。

でも、声だけ聞こえた。

「逃げるの?」

自分は黙った。

すると相手が笑う。

「どうせ失敗するのに?」

胸がズキッとした。

現実でも、ずっとそう思ってた。

人前が苦手。
声も小さい。
発表の日はいつもお腹が痛くなる。

「……うるさい」

小さく返した。

でも相手は止まらない。

「また笑われるよ」
「また頭真っ白になるよ」
「また逃げる?」

そのたびに、階段がどんどん長くなる。

終わりが見えないくらいに。

「嫌…」

足が震える。

帰りたい。

でも、その時だった。

白い駅の壁に、映像みたいに現実が映った。

教室。
ノート。
自分の席。

そして、昨日の自分。

発表の原稿を、何回も練習していた。

噛みながら。
止まりながら。

それでも、何回も。

夢の中の自分が、ぽつりと言った。

「……頑張ってたじゃん」

黒い人影が止まる。

「え?」

「怖かった。でも、逃げようとはしてなかった」

一歩、階段を上がる。

すると階段の黒が少しだけ薄くなった。

「失敗するかもしれない」

もう一歩。

「笑われるかもしれない」

さらに一歩。

「でも、自分はちゃんと前に進んでた」

人影が後ずさる。

「やめろ…!」

声が乱れる。

その瞬間、気づいた。

この人影。

怖がらせていた相手は、“誰か”じゃない。

ずっと自分の中にいた、不安そのものだった。

「もう黙って」

そう言って、最後の一段を登る。

すると黒い人影は、砂みたいに崩れて消えた。

白い世界を、風が静かに抜けていく。

遠くで、学校のチャイムが鳴った。

目が覚める。

朝だった。

スマホには、また通知。

“今日の発表よろしくね!”

昨日までは、その文字を見るだけで苦しかった。

でも今日は少し違う。

ベッドから起き上がり、小さく息を吐く。

「……夢の中でできたんだから」

制服を手に取る。

「現実でも、たぶん大丈夫」

窓の外の朝日が、少しだけ眩しかった。

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