人生で二番目の大恋愛【前編】|3年間愛した彼女の裏切りと、新しい出会い

人生で二番目の大恋愛

今は幸せだ。

仕事も順調だし、家族もいる。

だから未練なんてない。

それでも、たまに思い出す夜がある。

あの時、別の選択をしていたら。

もう少しだけ違うタイミングだったら。

人生は違う景色を見せてくれていたのだろうか、と。

二十五歳の頃。

自分には三年付き合った恋人がいた。

美咲という名前だった。

美咲は僕の名前を呼ぶのが苦手だった。

恥ずかしいのか、照れているのか。

理由は最後まで分からなかった。

だから会話の中では、

「ねえ」

とか、

「ちょっと」

とか、

そんな呼び方ばかりだった。

「たまには名前で呼んでよ」

そう言うと、

「無理」

と笑う。

でも愛情表現が苦手だったわけじゃない。

むしろ逆だった。

歩いていると自然に腕を組んでくる。

家で映画を見ていると肩にもたれてくる。

信号待ちでは当たり前のように手を握ってくる。

そのたびに少しだけドキドキした。

三年間、一度も大きな喧嘩をしたことがなかった。

だから。

まさか浮気されるなんて思ってもいなかった。

ある日の夜。

美咲からメールが届いた。

『あのアニメの続きのDVD借りたから、次行く時に持って行くね!』

意味が分からなかった。

そんな話はしていない。

『どうした?』

そう返すと、

『ごめん!奈々ちゃんに送るつもりだった!』

と返ってきた。

その時は特に気にしなかった。

でも今思えば、そこからだった。

食事中にスマホを触る時間が増えた。

助手席で返信することが増えた。

以前なら平気で見せていた画面を伏せるようになった。

たまにキスの仕方が違う時があった。

甘え方が違う時もあった。

「どうした?」

そう聞くと、

「たまにはこういうのも嬉しいかなと思って」

と笑う。

そして大体察した。

認めたくなかっただけだ。

翌週。

美咲の誕生日だった。

前日から泊まりに来ていた彼女が寝静まった深夜。

自分は最低なことをした。

寝ている美咲の携帯を見た。

疑惑は確信に変わった。

翌日。

知らないふりをしてデートに出かけた。

何週間も前から考えていた誕生日プランだった。

最後まで楽しんでほしかった。

でも無理だった。

途中で問い詰めた。

最初は否定した。

「泊まりに行っただけ」

さらに問い詰めると認めた。

その場では別れなかった。

別れられなかった。

ただ、

「今日は帰る」

そう言って帰宅した。

帰り道のことはほとんど覚えていない。

二日。

三日。

悩み続けた。

そして電話をかけた。

「相手と別れるなら許す」

長い沈黙のあと、

美咲は言った。

「今は選べない」

思わず笑った。

情けなくて。

悔しくて。

悲しくて。

笑うしかなかった。

「じゃあ、別れよう」

そう言って電話を切った。

それからの二週間はひどかった。

仕事に集中できない。

携帯が鳴るたび期待する。

友達と遊んでも楽しくない。

酒を飲んでも忘れられない。

何をしていても美咲がいた。

そんな頃だった。

共通の友人、健太が飲み会を開いた。

「お前そろそろ立ち直れよ」

健太が笑う。

隣では真由が、

「失恋した男って分かりやすいよね」

と笑った。

そんな二人の声を聞き流していた時だった。

由衣がいた。

小柄で。

よく笑う女の子だった。

その日はほとんど話さなかった。

でも気が付けば目で追っていた。

それから何度も飲み会で顔を合わせた。

自然と話すことが増えた。

気が付けば近くの席に座ることも多かった。

誰かが席替えをしても、また近くにいた。

そんなことが続いた。

七回目か八回目の飲み会だったと思う。

由衣は言った。

「元彼とは別れたんです」

でも住む場所がなくて、まだ元彼の家に住んでいるらしかった。

「早く出たいんですけどね」

そう笑う顔が少し寂しそうだった。

その日の話題は海外ドラマだった。

当時の自分は『プリズン・ブレイク』に夢中だった。

マイケルの天才ぶり。

ティーバッグの狂気。

伏線の面白さ。

夢中で語る自分を、

由衣は楽しそうに見ていた。

好きだったわけじゃない。

でも。

このまま恋愛に発展したらいいな。

そんな気持ちは少しだけあった。

飲み会が終わった帰り道。

「どこ行くんですか?」

由衣が聞いた。

「レンタル屋。プリズン・ブレイクの続き借りる」

「見に行ってもいいですか?」

「いいけど、俺、男だよ?」

由衣は笑った。

「ドラマ見に行くだけですから」

そして少し考えてから言った。

「大樹さんって落ち着きのある人じゃないですか」

由衣はそう言って笑った。

「だから変な心配してないんです」

そのまま本当に家に来た。

ソファに並んで座る。

プリズン・ブレイクを見る。

一時間半ほど経った頃だった。

ふと部屋が静かになった。

由衣がぽつりと言った。

「本当に落ち着きますね」

少し笑う。

「今の家があんな感じなんで」

そして続けた。

「こんなに安心してる夜、久しぶりです」

自分はそっとキスをした。

「ほら。男だって。気を付けて」

由衣は驚かなかった。

ただ微笑んで、

自分の肩に頭を預けた。

それ以上は何もなかった。

ただ寄り添って、

プリズン・ブレイクの続きを見ていた。

そして一時間ほど経った頃。

携帯が鳴った。

画面には。

美咲の名前が表示されていた。

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美咲からの突然の電話。

ずっと待ち望んでいた言葉を聞いた大樹が、最後に選んだ答えとは。

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